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下級審医療判例real estate

東京地判平26.9.10(下大静脈フィルター抜去による肺塞栓症)
判   決
 原告                甲野春江
 同                 甲野一郎
 同                 甲野二郎
 同                 甲野三郎
 上記4名訴訟代理人弁護士      谷 直樹
 同                 笹川麻利恵
 被告           学校法人Y医科大学
 同代表者理事長           乙山四郎
 同訴訟代理人弁護士         井上清成
 同                 衛藤正道
 同                 小野英明
 同                 尾籠真弥
 同                  小林英憲
 同                 山崎祥光
 同                 宮澤茉未

主   文
1 被告は、原告甲野春江に対し、192万5,000円及びこれに対する平成23年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は、原告甲野一郎に対し、64万1,666円及ぴこれに対する平成23年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告甲野二郎に対し、64万1,666円及ぴこれに対する平成23年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告申野三郎に対し、64万1,666円及ぴこれに対する平成23年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを8分し、その7を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
(略)
第三 争点に対する判断
1 医学的知見等
証拠(略及び証人D医師、証人E医師の篏言)によれば、次の医学的知見等が認められる。
(1)肺塞栓症とは、本来は血液中に存在しない物質が血流に乗って飛来し、肺動脈を閉塞させる病態をいう。この飛来した物質を塞栓子といい、血栓や腫瘍栓などがある。
(2)下大静脈フィルターの添付文書には、使用目的、効能又は効果として、下大静脈フィルターは「患者の血管径28mm以下の下大静脈にフィルターを留置して末梢静脈からの血栓を捕獲し肺塞栓を防止する」ものであり、「肺塞栓症リスクが消失した場合、フィルターは留置後10日以内に限り体内から回収することができる。」と、使用方法として、「留置後11日以上経過したフィルターの回収は行わないこと。[フィルター脚部フックが下大静脈壁に癒着する為、無理に回収するとフィルターや血管壁を損傷する可能性がある。]但し、患者の状態等により、本品を引き続き留置することが医学的に必要とされず、かつ抜去が安全に行えると判断される場合には、抜去することが望ましい。」と記載されている。
(3)下大静脈フィルター回収キットの添付文書には、使用方法として、「下大静脈フィルター内に血栓等を捕獲している状況下で、回収を行わないこと。[捕獲した血栓等が回収時に下大静脈フィルターから遊離し、肺塞栓につながる可能性がある。]」と、操作方法又は使用方法等として、「回収器具の挿入に先立ち、下大静脈造影を行い、下大静脈フィルターの位置と血栓の有無を確認する。」と、使用上の注意として、「下大静脈フィルターの回収前には、血管造影等を行い、捕獲した血栓の評価を行うこと。」と記載夸れている。
(4)血液が下大静脈フィルターの留置部位から肺動脈まで移動するのにかかる時間は、数秒から10秒程度である。
(5)右心房は圧力の変化が少なくのびしろの大きな空間であるため、静脈から移動してきた塞栓子が右心房でしばらくの間停滞するということがあり得る。        
2 争点(1)(抜去の適応につき判断を誤うた注意義務違反)について
(1)本件フィルターの抜去の適応について判断する前提として、本件フィルターの挿入の目的及び抜去までの事実関係について検討しておく。証拠(略)及び証人C医師の証言によれば、次の事実を認めることができる。
ア 亡太郎は、9月5日の腹部超音波検査及び腹部造影CT検査の結果、S状結腸と直腸の境目に約6cmの腫瘍があり、それが精嚢及び膀胱に直接浸潤していることが疑われ、また、右総腸骨静脈内に長さ約5cmの塞栓子があり、内部に淡い造影効果が認められることから、腫瘍栓の存在が疑われるとの所見を得ていた。このS状結腸の腫瘍によって腸閉塞になりかけていたことから、抗がん剤治療をする前に栄養状態を確保できるようにするために人工肛門造設術が行われることとなった。同月9日の血液検査の結果では、血管内の血栓量を反映する検査数値であるDダイマー1.41μg/mLであり、この時点では、抗凝固療法を行いながら経過観察することも可能で、直ちに下大静脈フィルターを挿入する必要があったわけではなかった。
イ 9月9日、手術を担当する第2外科では、本件フィルターを留置して人工肛門を造設した上で、腫瘍については化学療法や摘出を検討し、それで腫瘍を縮小させるか摘出することができれば、本件フィルターを抜去する方針とし、それまでは可能なら本件フィルターを留置しておいてほしいこと、抜去できなくなる可能性もあるので、半永久留置用の下大静脈フィルターを希望することを循環器内科と相談していた。これに対し、本件フィルターの責任部署である循環器内科からは、下大静脈フィルターは短期留置が原則であり、長期留置に伴って感染症やフィルター内の血栓形成が起きる危険があるとの指摘があった。ただ、人工肛門を造設する位置は、塞栓子が存在する右総腸骨静脈からは少し離れた位置であるが、手術中に腸を揺らして周りに癒着しているものがある場合にはそれを剥がしていくことがあり、その際に右総腸骨静脈に触れる可能性もあることなどから、亡太郎の右総腸骨静脈の塞栓子が血管壁から遊離する可能性は、人工肛門造設術の術前と術中とでは後者の方が高く、術後においては術前と同程度しかないと判断して、周術期における肺塞栓症の予防のために本件フィルターを留置することとした。同日、A医師は、亡太郎に対し、下大静脈フィルターを挿入及び抜去することについて説明をした。
ウ そして、亡太郎は、9月10日に本件フィルターを留置され、同月14日に人工肛門造設術を受けたが、人工肛門造設術中では、右総腸骨静脈に触れることはなかった。
エ 第2外科のB医師は、9月15日、循環器内科のA医師に対し、人工肛門造設術が無事終了したことを報告したところ、A医師から、長期留置に伴って感染症やフィルター内の血栓形成が起きる危険があるから、可能であれば早期の抜去が望ましいとの指摘があり、同月20日に本件フィルターを抜去することとした。
オ 9月20日午前11時49分に、亡太郎が突然意識を失い、眼球が上転するという急激かつ強い症状が生じているが、この容体急変は肺塞栓によって生じたものである。本件フィルターを抜去したのが午前11時41分であるから、抜去から8分後に肺栓塞症を発症したごとになる。
以上の事実を認めることができ、本件フィルターは、右総腸骨静脈に長さ約5cmの腫瘍栓と疑われる塞栓子が確認されたことから、周術期において、主に腫瘍栓によって肺塞栓を起こすことを予防するために挿入されたもので、予定どおり留置後10日目に抜去されたものといえる。
(2)これに対し、証人D医師は、亡太郎には、腫瘍栓による肺塞栓を起こす可能性があったほか、血管壁に腫瘍が出ていたことから、血流の停滞が生じ、血栓ができて血栓による肺塞栓を起こす可能性も高かったので、本件フィルターを挿入留置したのは適切であったが、人工肛門造設術後も肺塞栓症のリスクは高かったので、9月20日の時点では、下大静脈フィルターの長期留置のリスクをとってでも本件フィルターを留置して肺塞栓を予防すべきであったと供述し、下大静脈フィルターの添付文書にも「息者の状態等により、本品を引き続き留置することが医学的に必要とされず、かつ抜去が安全に行えると判断される場合には、抜去することが望ましい。」と記載されている。そして、証拠(略)は、下大静脈フィルターの留置が肺塞栓症との関係で死亡を防ぐ効果がある旨を記載した論文であり、証人D医師の供述に沿うものである。
しかしながら、証拠(略)の論文は、下大静脈フィルターを留置した症例だけの研究であり、その症例数も必ずしも多くなく、一般的に信頼性が高いといわれるランダマイズドコントロールドスタディによる研究ではない。したがって、症例報告という意味では参考となるものの、確立された医療水準を示したものとはいえない。さらに、下大静脈フィルターは、添付文書の使用目的においても、「末梢静脈からの血栓を捕獲し肺塞栓を防止する」ものと記載されており、証人B医師の証言によれば、腫瘍栓による肺塞栓症を防止するために使用することは一般的なことではないと認めることができ、証人D医師自身も、下大静脈フィルターについて、血栓以外の塞栓子には応用として使うものであると証言している。腫瘍栓が遊離したときの結果は極めて重大になり得るものであるが、被告病院の担当医師らが人工肛門造設術の周術期に限ってとはいえ下大静脈フィルターを留置したことからすれば、腫瘍栓が遊離する一定の可能性はあるものの、証人E医師の証言によれば、腫瘍の場合には浸潤してきている土台があり、血管内に顔を出している状態であるから、一般的に腫瘍栓が血管壁から遊離する可能性は血栓のそれと比較して低いと認めることができ、また、亡太郎は術前においては直ちに下大静脈フィルターを挿入する必要がなく、この状態は術後も概ね変わらなかったことからすれば、腫瘍栓が遊離する可能性はそれほど高いものではなかったと考えられる。血栓による肺塞栓症の予防という点についても、亡太郎が血栓が形成されやすい状態にあったことからすれば、大きな血栓が形成されて遊離する一定の可能性はあるものの、証拠(略)及び証人D医師の証言によれば、血栓の存在を疑わせる画像所見等がなかったことを認めることができ、その可能性はそれほど高くないと考えられる。
以上によれば、9月20日以降本件フィルターを留置するという選択もあり得なくはないものの、本件フィルターを抜去したことについても一応の合理性があり、本件フィルターを抜去したA医師の判断は医療行為としての裁量の範囲内にあるといえ、A医師に法的注意義務違反があったとは認められない。
3 争点(2)(争点(1)の注意義務違反と結果との因果関係)について
争点(1)の注意義務違反が認められない以上、この点について判断する必要はない。
4 争点(3) (塞栓子の捕獲の有無につき確認を怠った注意義務違反)について
(1)下大静脈フィルターは、塞栓子が肺動脈に移動する前に捕獲することによって致命的な肺塞栓症を防ぐために挿入されるものであるため、これを抜去するに当たっては、塞栓子が捕獲されている可能性を想定し、抜去に伴って塞栓子が遊離して肺塞栓症を引き起こす危険を避けなければならない。そのためには、事前に造影検査を行って塞栓子の捕獲の有無を確認し、捕獲が確認された場合は、塞栓子の大きさや捕獲の態様などからその時点での抜去の適否を慎重に検討することが求められるというべきであり、下大静脈フィルター回収キットの添付文書に「下大静脈フィルターの回収前には、血管造影等を行い、捕獲した血栓の評価を行うこと。」などと記載されていることに照らしても、医師は、下大静脈フィルターを抜去するに当たっては、肺塞栓症の危険が明らかに小さいと考えられるとき、緊急に抜去する必要があるとき、造影剤の使用が禁忌とされるときなど、特段の事情があるときを除き、原則として事前に造影検査を行って塞栓子の捕獲の有無を確認する義務があるというべきである。
(2)本件では、亡太郎について、右総腸骨静脈に長さ約5cmの腫瘍栓と疑われる塞栓子が確認され、そのため周術期において本件フィルターを挿入したのであり、また、緊急に抜去する必要があることや造影剤の使用が禁忌とされることを窺わせる事情も認められない。
したがって、塞栓子の捕獲の有無の確認を不要とする特段の事情がない以上、A医師は、本件フィルターを抜去するに当たり事前に造影検査を行って塞栓子の捕獲の有無を確認すべき注意義務を負っており、これを怠った注意義務違反があると認められる。
なお、前記認定のとおり、人工肛門造設術中には右総腸骨静脈に触れていないとしても、上記認定を左右しない。
5 争点(4)(争点(3)の注意義務違反と結果との因果関係)について
原告らは、本件フィルターに捕獲されていた腫瘍栓が抜去に伴い遊離して肺塞栓症を引き起こしたと主張する。
しかし、血液が下大静脈フィルターの留置部位から肺動脈まで移動するのにかかる時間は数秒から10秒程度であること(前記1(4))、亡太郎の肺塞栓症を引き起こした腫瘍栓は長さ5.5cmで致命的な肺塞栓症を引き起こすものであったことからすれば、原告らの主張するように本件フィルターに捕獲されていた腫瘍栓が抜去に伴って遊離した場合、血液の上記移動時間に近い時間の範囲内で肺動脈を閉塞させ、それから間もなく肺塞栓症による容体の急変が生ずるのが通常の機序であると認められる。
本件では、本件フィルターの抜去から亡太郎の容体急変までの間に8分間の時間差がある。確かに、本件フィルターの抜去から亡太郎の容体急変までの時間が比較的近接していることや、塞栓子が右心房でしばらくの間停滞することがあり得ること(前記1 (5))に照らすと、原告らが主張するように、腫瘍栓が肺動脈に移動する前に右心房でしばらく留まっていたために生じたものである可能性も相当程度認められるということはできる。ただ、証拠(略)によれば、本件フィルター抜去が午前11時41分であるが、その直前である午前11時9分の亡太郎の血圧は102/64であり、そのときの心拍数は90回であり、その後、本件フィルター抜去直後である11時45分までの血圧の記録はないものの、11時45分には血圧が120/70、心拍数は92回であり、本件フィルター抜去直前の心拍数は、午前11時29分100回、同33分100回、同34分101回となっていたことを認めることができ、抜去直前の静脈内の血流が速まり、本件フィルター抜去後に右総腸骨静脈から腫瘍栓が遊離した可能性も否定できない。さらに、そのような亡太郎の状態を前提とすると、被告が主張するように、右総腸骨静脈から抜去後の体動等が直接の原因となって腫瘍栓が遊離して肺塞栓症を引き起こした可能性も考えられるところである。以上のことに加え、本件フィルターが抜去時に腫瘍栓を捕獲していたことを窺わせる事情が認められないことからすると、本件フィルターに捕獲されていた腫瘍栓が抜去に伴い遊離して肺塞栓症を引き起こしたと認定することはできない。
したがって、造影検査を行っていれば本件フィルターに塞栓子が捕獲されていることを確認することができたと認めることはできず、争点(3)の注意義務違反と亡太郎の死亡の藾果との間に因果関係は認められない。
6 争点(5)(説明義務違反)について
原告らは、9月20日の時点で、A医師が亡太郎及ぴ原告らに対して本件フィルターの抜去に伴う肺塞栓症の危険にういて説明すべき注意義務を負っていたと主張する。
しかし、前記認定事実に照らせば、A医師は、9月9日、本件フィルターを挿入するのに先立ち、亡太郎に対し、人工肛門造設術に伴う右総腸骨静脈の塞栓子による肺塞栓症を予防するために下大静脈フィルターを挿入及び抜去すること並びにその手技による合併症の危険について説明し、亡太郎の同意を得たことを認めることができる。A医師が抜去の後に塞栓子が遊離して肺塞栓症を引き起こす危険があることまで説明をしたと認めることはできないものの、前記認定のとおり、本件フィルターの挿入は周術期の危険を回避するためのもので、挿入の手技による合併症の危険についても説明したのであるから、A医師が行う予定としていた医療行為について説明をしたことを認めることができる。医師は、医療行為を施すに当たって、その正当性を獲得するための一環として、患者の納得を得るような説明をすべきであって、医療水準として複数の選択肢があり得る場合には、その選択についてどのように判断すべきかということに関わる利益及び不利益についても触れながら、適切な医療行為がされることを説明すべきである。本件の場合には、A医師としては、本件フィルター抜去後の状況は、人工肛門造設術の手術前と変わるところはないと認識しており、本件フィルターを留置するとの医療行為を行うことを予定していなかったのであるから、予定していない医療行為について説明義務が発生することもないというべきである(疾病の状況から当然期待される医療行為をしなかった場合には、別に当該医療行為の不作為自体が問題とされることがあり得ることは当然である。)。原告らは、本件フィルターの挿入と抜去とを別々の医療行為として、本件フィルター抜去時に、抜去の危険性を説明すべきであったと主張するが、本件フィルターの挿入は周術期の危険を回避するために行ったものであり、挿入と抜去は一体のもので、挿入時に説明が尽くされていれば足り、原告の主張は、本件フィルターを留置するという別個の医療行為についても説明すべきであったということに帰するのであり、A医師が予定していない医療行為についての説明義務を問題とするものであって、適切でない。なお、医療水準として確立していない医療行為については、当該患者から特にそのような医療行為についての説明を求められる場合には、説明義務の範疇に入ってくることがあり得るものの、亡太郎及び原告らが本件フィルターの留置を特に希望していたという事実も認められないことからすれば、9月20日の本件フィルターの抜去に際し、A医師に改めて原告らが主張するような説明をすべき注意義務があったとは認められない。
したがって、A医師に争点(5)の注意義務違反は認められない。
7 争点(6) (争点(5)の注意義務違反と結果との因果関係)について
争点(6)の注意義務違反が認められない以上、この点について判断する必要はない。
8 争点(7)(相当程度の可能性)について
前記5のとおり、A医師には争点(3)の注意義務違反が認められるものの、これと亡太郎の死亡の結果との間に因果関係は認められない。
しかし,本件フィルターを留置していた9日間のうちに腫瘍栓が右総腸骨静脈から遊離して本件フィルターに捕獲され、本件フィルターの抜去に伴って遊離して右心房でしばらく留まった後に肺塞栓症を引き起こした可能性は、本件フィルターの抜去から亡太郎の容体急変までの時間が比較的近接していることからすれば、相当程度あるというべきである。
そうすると、A医師の争点(3)の注意義務違反がなければ、亡太郎は9月20日の時点で肺塞栓症を発症することもなく、11月15日の時点でなお生存していた相当程度の可能性があると認められる。
なお、被告は、本件フィルターが腫瘍栓を捕獲しているのを確認したとしても本件フィルターを抜去した可能性があり、また、本件フィルターを抜去しなかったとしでも亡太郎の予後は同様に不良であったと主張するが、これらについて、上記の認定を妨げるに足りる事実の主張立証はない。
9 争点(8)(損害)についで
(1)慰謝料
医師の注意義務違反と患者の死亡の結果との間に因果関係は認められないが、医師の注意義務違反がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があると認められる場合、ここで侵害されているのは、患者の生命とは別個の客観的な法益であり、これは適切な診療行為がなされることを前提としたものであるから、損害もこれに対する慰謝料の限りで認められる。
証人C医師の証言により、亡太郎はがんが進行しており予後が不良でありながらも、抗がん剤治療が奏功すれば一定期間の余命を期待することができたと認められることからすれば、亡太郎がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が侵害されたことの慰謝料は、350万円が相当である。
そして、亡太郎の妻である原告春江はその2分の1に当たる175万円を、亡太郎の子である原告一郎、原告二郎及び原告三郎はそれぞれその6分の1に当たる58万3,333円を相続している。
(2)弁護士費用
原告らの損害として認めるべき弁護士費用は、原告春江につき17万5,000円、原告一郎、原告二郎及ぴ原告三郎につき各5万8,333円が相当である。
(3)合計
したがって、損害の合計額は。原告春江につき192万5,000円、原告一郎、原告二郎及び原告三郎につき各64万1,666円となる。
10 結論
以上のとおり、原告らの請求は、原告春江にづき192万5,000円、原告一郎、原告二郎及び原告三郎につき各64万1,666円の損害賠償金並びにこれらに対する不法行為の日である平成23年9月20日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

        東京地方裁判所民事第35部
           裁判長裁判官 近藤昌昭
              裁判官 五十嵐章裕
              裁判官 石川紘紹

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