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下級審医療判例real estate

東京地判平19.6.11
                    主     文
1 別紙1@の「被告」欄記載の被告らは,原告Aに対し,連帯して「認容額」欄記載の金員及び「内金」欄記載の内金に対する平成15年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 別紙1Aの「被告」欄記載の被告らは,原告Bに対し,連帯して「認容額」欄記載の金員及び「内金」欄記載の内金に対する平成15年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 別紙1Bの「被告」欄記載の被告らは,原告Cに対し,連帯して「認容額」欄記載の金員及び「内金」欄記載の内金に対する平成15年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 別紙1Cの「被告」欄記載の被告らは,原告Dに対し,連帯して「認容額」欄記載の金員及び「内金」欄記載の内金に対する平成15年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを20分し,その9を原告Aの,その1を原告Bの,その1を原告Cの,その1を原告Dの各負担とし,その余は被告らの連帯負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
                    事 実 及 び 理 由
(略)
第3 当裁判所の判断
1 被告らの損害賠償責任
前提事実によれば,E医師は,民法709条に基づいて,少なくとも原告Aに対し(その余の原告らに対する関係は後述する。),本件再出血があったことにより生じた損害(本件後遺障害が生じたことによる損害を含む。)を賠償すべき義務(債務)を負ったというべきであるし,また,被告昌医会は,民法715条1項に基づいて,少なくとも原告Aに対し(その余の原告らに対する関係は後述する。),上記損害を賠償すべき義務があるというべきである。そして,被告F,被告G,被告H及び被告Iは,上記のE医師の債務を順次10分の5,10分の2,10分の2,10分の1の割合で相続したといえる。
そこで,以下,原告らの主張する損害について検討する。
2 まず,本件後遺障害の内容,程度について検討する。
(1) 前提事実に証拠(甲A4,5,9ないし16,18ないし20,24の1,原告C及び原告D各本人のほか,各項に掲げるもの)及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認められる。
ア 高次脳機能障害については,一般に,意思疎通能力(記銘・記憶力,認知力,言語力等 ,問題解決能力(理解力,判断力等),作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力(協調性等)の4つの能力の喪失の程度に着目して評価が行われる(甲B4の1・2)。
イ 後遺障害診断書等の内容
(ア) 平成16年2月9日付け(診断日は同月4日)の主治医意見書(被告病院のJ医師作成)
a 心身の状態に関する意見
日常生活自立度は,J2,Tである。
理解及び記憶については,短期記憶には問題があるが,日常の意思決定を行うための認知能力,自分の意思の伝達能力及び食事には問題がない。
問題行動はなく,精神・神経症状もない。
(なお,Jとは,何らかの障害等を有するが,日常生活はほぼ自立しており,独力で外出する程度をいい,このうちJ2とは,隣近所へなら外出する程度を指す。Tとは,何らかの痴呆を有するが,日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している程度をいう。(乙B1 ))
b 介護に関する意見
転倒・骨折が発生する可能性が高く,訪問診療,訪問看護,訪問リハビリテーション及び通所リハビリテーションが必要である。また,血圧に関し,内服を確認する必要がある。
(イ) 平成16年1月22日調査・同年3月1日審査の介護認定審査会の判定結果
室内での移動に見守りを必要とするが概ね自立していること,外出に付添いが必要であり通院以外に遠出することがないこと,服薬管理や金銭管理に支障があり記憶力の低下が見られること,これらを考慮し,日常生活自立度はA1,Ubである。
(なお,Aとは,屋内での生活は概ね自立しているが,介助なしには外出しない程度をいい,このうちA1とは,介助により外出し日中はほとんどベッドから離れて生活するものを指す。Uとは,日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる程度をいい,このうちUbとは,家庭外のみ
ならず家庭内でもこの状態が見られるものを指す。(乙B1 ))
(ウ) 平成16年6月22日付け(診断日は同月9日)の主治医意見書(被告病院のJ医師作成)
a 心身の状態に関する意見
日常生活自立度は,J2,Tである。
理解及び記憶については,短期記憶には問題があるが,日常の意思決定を行うための認知能力,自分の意思の伝達能力及び食事には問題がない。
問題行動はなく,精神・神経症状もない。
b 介護に関する意見
転倒・骨折が発生する可能性が高く,訪問診療,訪問看護,訪問リハビリテーション及び通所リハビリテーションが必要である。また,血圧に関し,内服を確認する必要がある。
(エ) 平成16年6月28日調査・同年7月21日審査の介護認定審査会
の判定結果
日中は起きて生活し2,3日に一度介助により自宅近くに散歩に出かけること,薬を分けられず少し前のことも忘れること,1人での留守番が困難になりつつあること,日にちやお金の計算等の数的なものを忘れやすいこと,これらを考慮し,日常生活自立度はA1,Uaである。
(なお,Uとは,上記のとおり,日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる程度をいい,このうちUaとは,家庭外でこの状態が見られるものを指す(乙B1)。)
(オ) 平成17年7月1日付け(診断日も同日)の主治医意見書(虎の門
病院のK医師作成)
a 心身の状態に関する意見
日常生活自立度は,J2,Ubである。
理解及び記憶については,短期記憶に問題があり,日常の意思決定を行うにあたって見守りも必要であるが,自分の意思の伝達能力及び食事には問題がない。
精神・神経症状はないが,火の不始末という問題行動がある。
b 介護に関する意見
尿失禁が発生する可能性が高く,訪問リハビリテーションが必要である。また 移動に関し,1人で外出させると帰れない可能性がある。
(カ) 平成17年6月27日調査・同年7月27日審査の介護認定審査会の判定結果
室内移動は自立しているが外出は付添いがなければできないこと,短期記憶障害があり電話対応や1人での留守番ができないこと,これらを考慮し,日常生活自立度はA2,Ubである。
(なお,Aとは,上記のとおり,屋内での生活は概ね自立しているが,介助なしには外出しない程度をいい,このうちA2とは,外出の頻度が少なく日中も寝たり起きたりの生活をしているものを指す(乙B1)。)
(キ) 平成18年2月10日付け(診断日は同年1月27日)の後遺障害診断書(K医師作成)
a 傷病名 くも膜下出血後遺症
b 精神・神経の障害,他覚症状及び検査結果
言語性IQ 89
動作性IQ 69
全IQ 80
ウ 各種検査結果等
(ア) MMS
23点以下が痴呆疑いであるが,20点以下とする人もいる(甲B2)。
@ 平成15年10月15日 11/30
A 平成15年10月29日 17/30
B 平成15年11月10日 17/30
C 平成15年11月18日 19/30
D 平成15年12月15日 17/30
(イ) HDS−R(長谷川式簡易知能スケール)
20点以下が痴呆疑いである(甲B2,甲B3)。
平成17年9月16日 16点
(ウ) WAIS−R
普通の人の100人のうち68人が85点から115点の間である
(甲B3)。
平成17年10月21日
言語性IQ 89
動作性IQ 69
全IQ 80
エ 原告Aの現在の日常生活
(ア) 食事については,自力で食べることが可能である。ただし,自分からは空腹感を訴えないということがあった。
(イ) 更衣については,独力で行うことが可能であるが(ただし,ズボンの着脱の際にふらつくことがある。),指示がないと,例えば,一日中寝間着のまま過ごしたり,寒いのにコートをはおらないなどということがあった。
入浴については,背中や足元を洗ったり洗髪をする際には,ふらつきがあることから,原告Dが介助をしている。
排尿については,常時おむつを着用しており,おむつに漏らすこともあるが,自らトイレで行うこともあり,おむつが濡れた場合には自ら交換することもある。他方,排便は,自ら判断して独力で行うことができる。
なお,歯磨きは自ら必要と判断して行うが,他人の歯ブラシとの区別はつかない。
(ウ) 炊事や洗濯,掃除等のいわゆる家事労働については,自発的には行わないが,依頼ないし指示があれば独力で行う。ただし,炊事については,細かい手順を1つずつ指示することが必要である。また,テレビ等の他の対象に興味を示すと作業を途中で投げ出すことがあるなど,持久力の顕著な低下が認められる。ビーズアクセサリーを行わせた際,原告Dが横について説明しながらでも2時間行うのがやっとであった。
なお,字を読むことは可能であるが,新聞は読まない。また,毎日の昼寝を日課としている。
最近は,勝手に火を使用することはなく,火の不始末はない。
(エ) ほとんど自宅内で過ごしており,勝手に外出したことはない。なお,原告Aを1人で外出させたことはなく,外出の際には必ず誰かが付き添っている。
(オ) 歩行中に右に右にずれる傾向があり,立ち上がるときによくふらつく。階段の昇降は,一人で行うことができるが,踏み外したときのことを心配して必ず後ろに誰かが付いている。
(カ) 普通の会話はできる。隣人とも挨拶は交わす。幻覚・妄想はない。
(キ) 短期記憶障害が認められ,本件再出血以前の記憶は保たれているが,新しいことが覚えられない。例えば,当日の日付が言えなかったり,電話がかかってきたことを忘れたりする。かかってきた電話の内容を伝えることは困難である。
(ク) 自発性の低下が顕著に認められ,自分から何かを訴えることはほと
んどない。声をかけなければ,一日中寝ていることもある。隣人とも会話をしなくなった。
(ケ) 原告Cは,月に1,2回,原告Aの居宅に行き,泊まりがけで世話をしている。また,原告Bは昼間は自宅敷地の作業場で作業をしており,原告Dも平日は午前7時から午後7時ころまで仕事のために自宅を留守
にしているのであって,常時原告Aの介護をしているわけではない。
(2) 上記(1)に基づいて本件後遺障害の内容,程度について検討する。
ア 本件後遺障害のうち高次脳機能障害について
少なくとも「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(後遺障害等級5級)に該当するといえる(この点については被告らも争っていない。)。
問題は,後遺障害等級の5級を超えて3級(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」)又は2級(別表第一)(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」)に該当するかである。 」
原告Aは,自発性の著しい低下により何事においても自ら主体的,積極的に行動するということがない。
しかし,食事,排泄,更衣等の日常生活の維持に必要な身の回り処理の動作については介護なくして独力で行うことができるし,炊事,洗濯,掃除等の家事についても家族からの一定ないし随時の指示があれば独力で行うことができること,家族からの監視がない間に危険な行動をしたことがあったとは認められないこと,これらの諸点及び諸検査の結果を総合考慮すると,介護を要する2級に当たると認められないことはもとより,少な
くともいわゆる家事労働はできるのであって,全く労務に服することができないとまではいえないから,3級に当たるとも認め難い。
もっとも,上記のとおり家事について家族からの一定ないし随時の指示が必要であるほか,自発性の低下のために身の回り処理の動作についても家族からの指示が必要な場合があること,持続力・持久力が低下していることが認められるのであって,これらの点については,後記の将来の介護費や後遺症慰謝料を検討する際に斟酌することとする。
イ 本件後遺障害のうち眼の障害について
一般に,別表第二にいう「半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの」(後遺障害等級9級,13級)とは,ゴールドマン型視野計により視野を測定して,V/4視標による8方向の視野の角度の合計が正常視野の角度の60%以下になった場合をいうものとされ,かつ,暗点については絶対暗点を採用し比較暗点は採用しないとされているところ,当裁判所も,基本的にはこれに従う。そうすると,前提事実(3)イ(イ)のような事実だけでは,上記「半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの」に該当するとはいえないし,他に,本件全証拠を検討してみても,上記「半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの」に該当するといえるだけの事実を認めるに足りる証拠はない。
もっとも,前提事実(3)イ(イ)のような障害がある点については,後記の将来の介護費や後遺症慰謝料を検討する際に斟酌することとする。
3 損害(特記しない限り,原告Aの損害である )。
(1) 入院費(投薬代を含む )。 17万7000円
原告Aは,本件再出血があったことによって前提事実(3)ア前段のとおり被告病院に入院して診療を受けたところ,その入院費(投薬代を含む。)として計17万7000円を要したことは争いがない。
(2) 診療費(投薬代を含む )。 5万9990円
まず,原告Aは,本件再出血があったことによって前提事実(3)ア前段のとおり被告病院に通院して診療を受けたところ,その診療費(投薬代を含
む。)として計2万7670円を要したことは争いがない。
次に,前提事実(3)ア後段の虎の門病院での診療についてみるに,前提事実及び上記2の認定事実に証拠(甲A4)及び弁論の全趣旨を併せると,原告Aが被告病院で最後に診療を受けたのは平成16年9月8日であるが,その診療の際,診療打切り(症状固定)とはされず,次回診療日として同年10月6日が予約されたこと,原告Aは,同年9月22日に被告病院において本件に係る証拠保全(カルテ等の検証)が実施されたことから,以後,被告病院を受診することは避けて,虎の門病院を受診するようになったことが認められるから,特段の事情のない限り,虎の門病院での診療も本件再出血があったことにより必要になったものと推認すべきである。そして,この推認を妨げる事情は本件全証拠によっても認めるに足りないから,虎の門病院での診療費(投薬代を含む。)も本件再出血があったことにより生じた損害であると認めるのが相当である。証拠(甲C12ないし17(枝番を含む。))によれば,その診療費は計3万2320円であると認められる(原告ら主張額のうち同額を超える4480円については,これを認めるに足りる的確な証拠がない。)。
(3) 入院付添費 50万4000円
本件では医師による付添の指示があったことを認めるに足りる証拠はないが,証拠(甲A18,20)によれば,原告Aの入院中,毎日,その余の原告らのいずれか(又は複数)が付き添ったことが認められるところ,前提事実(2)のような本件再出血(くも膜下出血)の重症度,前提事実(3)アのような手術の経過及び本件後遺障害の重症度を総合考慮すると,原告Aは被告病院に入院中近親者の付添看護を要したものと認めるのが相当であり,この入院付添費としては,1日当たり4000円として計50万4000円(12
6日分)をもって相当と認める。
(4) 通院付添費 5万4000円
証拠(甲A4,18,C3ないし17(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,前提事実(3)アの原告Aの通院は計18回であるが,その通院については,毎回,その余の原告らのいずれか(又は複数)が付き添ったことが認められるところ,前提事実(2)のような本件再出血(くも膜下出血)の重症度及び本件後遺障害の重症度を総合考慮すると,原告Aは症状固定までの全通院(18回)について近親者の付添看護を要したものと認めるのが相当であり,この通院付添費としては,1回当たり3000円として計5万4000円(18日分)をもって相当と認める。
(5) 将来の介護費 2175万1266円
上記2の認定事実によれば,原告Aは,日常生活の維持に必要な身の回り処理の動作について,いわゆる介護までは必要としないものの,家族からの指示を必要とする場合があることが認められるから,将来の介護費として,症状固定時(57歳)からの平均余命28年間(ライプニッツ係数14.8981)につき,1日当たり4000円として計2175万1266円をもって相当と認める。
(6) 症状固定までの自宅介護費 144万6000円
これまでに判示したところによれば,原告Aにつき,被告病院退院日の翌日である平成15年12月31日から本件後遺障害の症状固定時である平成17年1月14日まで(ただし,平成16年4月19日から同月24日までの入院期間は除く。)の375日間についての,自宅における生活に係る介護費として,1日当たり4000円,計150万円を損害と認めるのが相当である。
ただし,上記(4)の通院付添費5万4000円は重複するので,これを控除すると,144万6000円となる。
(7) 入通院慰謝料 250万円
前提事実に証拠(甲A4,甲C3ないし17(枝番を含む。))を併せると,原告Aは,本件再出血(くも膜下出血)及びそれに続発して生じた正常圧水頭症の診療を受けるために,被告病院に平成15年9月2日から同年12月30日まで及び平成16年4月19日から同月24日まで入院し,また,平成16年1月21日から平成17年1月14日までの長期にわたり被告病院及び虎の門病院に通院した(平成16年1月に1回,2月に2回,3月に1回,4月に3回,5月ないし8月に各1回,9月に2回,10月に1回,11月に3回,平成17年1月に1回,以上合計18回通院した。)ことが認められる。この点に加え,上記入院期間中に3回も頭部の手術を受けざるを得なかったこと,本件再出血(くも膜下出血)の重症度,その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,入通院慰謝料は250万円をもって相当と認める。
(8) 入院雑費 18万9000円
原告Aが本件の入院雑費として計18万9000円を要したこと,この計18万9000円が本件再出血があったことにより生じた損害であること,これらについては争いがない。
(9) 交通費
近親者の付添交通費は,上記(3)の入院付添費及び(4)の通院付添費に含まれ,別途算定しない。また,原告Aの通院のための交通費は,その主張自体に照らして,付添人である家族の運転する自家用車の燃料費であると認められるところ,これは通院付添費に含まれる。
(10) 後遺症慰謝料 計1800万円
上記2のような内容,程度の本件後遺障害が残ったことによって原告Aが多大な精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推察されるし,原告B並びに原告C及び原告Dについても,愛する妻ないし母が本件後遺障害のために自発性の著しい低下を来して身の回り処理の動作についてすら家族からの指示を必要とするようになったことなどを考慮すると,原告Aが生命を害された場合にも比肩するような精神的苦痛を受けたであろうことが推察される。
上記2のような本件後遺障害の内容,程度のほか,本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,上記精神的苦痛に対する慰謝料は,原告Aにつき1500万円,原告B,原告C及び原告Dにつき各100万円をもって相当と認める。
(11) 逸失利益 1976万4342円
上記2のとおりであるから,原告Aの本件後遺障害による労働能力喪失率を79パーセントとみる。
しかして,原告Aは,中学卒の女性で症状固定時は57歳であったところ,本件後遺障害がなければ,原告ら主張の12年間(ライプニッツ係数8.8632 ,通常どおり稼働して282万2700円(平成15年賃金センサス女子中卒・55歳ないし59歳の年収額)の年収を得ることが可能であったといえる。
そうすると,原告Aの逸失利益は,次の数式のとおり1976万4342
円となる。
282万2700円×0.79×8.8632=1976万4342円
(12) 住宅改造費用
これまでに判示した事実関係からは,本件後遺障害があるために原告ら主張のような住宅改造をする必要があるとまでは認め難いし,他に,本件全証拠を検討してみても,上記必要性を認めるに足りるだけの事情は見当たらない。
(13) 文書代 41万4370円
原告Aが被告病院及び片岡病院に対して行った証拠保全の記録謄写費用として計41万4370円を要したこと,この計41万4370円が本件過失と相当因果関係のある損害であること,これらについては争いがない。
(14) 弁護士費用
以上による損害額は,原告Aにつき6185万9968円,原告B,原告C及び原告Dにつき各100万円となる。
26
本件過失と相当因果関係のある弁護士費用損害金は,原告Aにつき620万円,原告B,原告C及び原告Dにつき各10万円と認める。
4 以上によれば,被告昌医会及びE医師は,不法行為(被告昌医会は使用者責任)に基づき,連帯して,原告Aに対し6805万9968円,原告B,原告C及び原告Dに対し各110万円及びこれらの金員の内弁護士費用を除いた6185万9968円,各100万円に対する不法行為後である平成15年9月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務(債務)を負ったといえる。そして,E医師の上記債務を,被告Fが10分の5,被告G及び被告Hが各10分の2,被告Iが10分の1の各割合で相続したものといえる。
5 以上の次第で,原告らの本訴請求については,主文第1項ないし第4項の金員の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,61条,65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれ
ぞれ適用して,主文のとおり判決する。


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