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最高裁医療判例real estate

最高裁医療判例
〇最判昭44・2・6民集23巻1号195頁

水虫レントゲン線照射事件 医師の注意義務 患者の病状に十分注意しその治療方法の内容および程度等については診療当時の医学的知識にもとづきその効果と副作用などすべての事情を考慮し、万全の注意を払つて、その治療を実施しなければならない,とした。

人の生命および健康を管理する業務に従事する医師は、その業務の性質に照らし危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるとすることは、すでに当裁判所の判例(当裁判所第一小法廷判決昭和三一年(オ)第一〇六五号、同三六年二月一六日民集一五巻二号二四四頁参照)とするところであり、したがつて、医師としては、患者の病状に十分注意しその治療方法の内容および程度等については診療当時の医学的知識にもとづきその効果と副作用などすべての事情を考慮し、万全の注意を払つて、その治療を実施しなければならないことは、もとより当然である。

ところで、原判決の適法に確定した事実、とくに水虫に対するレ線照射は根治療法ではなく対症療法にすぎないこと、被上告人の左右足蹠についてそれぞれ合計五〇四〇レ線量に達するD病院におけるレ線照射は、その総線量において一般に皮膚癌発生の危険を伴わないとされていた線量をはるかにこえる過大なものであつたこと、しかも昭和二七年七月F大学医学部附属病院皮膚科G教授によりレ線照射による色素の脱失や沈着などの皮膚障害を発見され、同教授の要請によりはじめてレ線照射の治療が中止されたなど本件治療の経過に徴すると、レ線照射により被上告人の水虫の治療に当つたD病院のH、I両医師としては、細心の注意を払つて皮膚癌のような重大な障害の発生することのないよう万全の措置をすべき業務上の注意義務を怠つた過失があるとした原判決の判断は、当審も正当として肯認しえないわけではない。

問題は、その病状と治療効果、そのおかす危険度との調和と、その治療に当つての医師として払うべき注意いかんということでなければならない。論旨のいうとおり、本件レ線照射により被上告人の水虫の病状は改善されたであろうが、水虫の治療において原審認定のほどに過大なレ線照射をしてその治療効果を著しくあげようと図ることは(他に研究目的があり、かつ、このことを患者が了承していた等特別の事情があるときには別に解する余地があろうが)医師の注意義務を十分に尽くしているものとは解せられないのである。

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