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医療訴訟real estate

「個人または国家全体に対してであれ、人格を侮辱するような仕方で行われる権利侵害に対する抵抗は、私たち1人ひとりの義務なのだ。それはまず自分自身に対する義務である。私たち人間にとっては倫理的に生きることも重要であり、そのための条件は権利を主張することだ。」(ルドルフ・フォン・イェーリング『権利のための闘争』より)

1審(地方裁判所)の審理
医療訴訟は、東京地裁の場合おおよそ2年くらいはかかります.裁判所と事案によっては3年くらいかかる場合もあります.訴訟前に、病院側が説明会を開き、事実経過と法的評価についての見解を明らかにしている場合は、争点を早期に絞ることができるため、比較的早期に解決できる傾向があります.
医療訴訟では、@裁判上の和解とA判決という解決方法があります.証人尋問前に和解が成立することもあります.
※ 最高裁判所の医事関係訴訟に関する統計(PDF)
医事関係訴訟事件の処理状況及び平均審理期間
医事関係訴訟事件の終局区分別既済件数及びその割合
地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率
医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数

控訴審(高等裁判所)の審理
1審(地方裁判所)の判決に対し、当事者の一方または双方が控訴することがあります.その場合、高等裁判所で審理されることになります.高等裁判所の審理は、1回で終わることもあります.

上告審(最高裁判所)の審理
高等裁判所の判決に対し、最高裁判所に上告、上告受理申立を行うことができます.
最高裁判所は、憲法判断や法律解釈の統一を主な目的としていますので、上告、上告受理申立が認められて逆転することはまれですが、全くないことではありません.

医療訴訟にかかる弁護士費用・実費
[弁護士費用]
1審(地方裁判所)の訴訟着手金は、50〜100万円+消費税です.
控訴審(高等裁判所)の訴訟着手金も、50〜100万円+消費税です.
ただし、1審に引き続き控訴審を受任する場合は、減額することがあります.
上告審(最高裁判所)の訴訟着手金も、50〜100万円+消費税です.
ただし、控訴審に引き続き上告審を受任する場合は、減額することがあります.
報酬金は、賠償金額(遅延損害金等を含む)の25〜30%+消費税です.
[実費]
実費は、訴訟印紙代(請求金額;160万円の一部請求の場合1万3000円、5千万の請求の場合17万円、1億円の請求の場合32万円)、裁判所に納付する郵便切手代6000円、協力医鑑定意見書謝礼、文献収集費用、コピー代、郵送料、交通費などがかかります。

訴訟を提起するには、裁判所に納める印紙代がかかります.印紙代は請求額に連動して高額になりますが、提訴時には一部の金額を請求し.後に請求金額を拡張することもできます.たとえば,160万円の一部請求で提訴しますと印紙代は1万3000円ですみます.

医師の注意義務は、医学文献で立証します.医学文献の収集コピー代等がかかります.
注意義務違反の事実は、診療記録と医師尋問で立証します.
具体的なあてはめは、私的鑑定意見書で立証します.とくに、医学文献だけでは立証が不充分な場合(あまりにも初歩的なミスで医学文献に書かれていない場合、特殊な事案の場合、具体的なあてはめについて裁判所から意見書を求められた場合など)は、私的鑑定意見書による立証を必要とします.東京地裁の場合意見書を求めることが多いです.最近は裁判所鑑定が減少していますが、裁判所鑑定が必要となることもあります.その場合鑑定費用がかかります.

それぞれの事案の内容・病院側の対応により、実費も異なってきますので、訴訟委任契約をお奨めする際に、実費の見込みについて、おおよそですがお示しします.


医療訴訟の流れ

1 訴状の提出
原告は,被告を特定し裁判所に求める判決を記載した訴状を裁判所に提出して,訴訟が始まります。

2 裁判長の訴状審査
裁判長は,訴状の形式的な内容を審査します。
裁判所は,原告代理人の出席できる日時に第1回期日を指定します。被告・被告代理人の都合を聞く必要はありません。

3 第1回口頭弁論期日 
公開の法廷で行います。
原告が訴状を陳述します。「陳述」というのは,書面に記載した内容を裁判の資料とする手続きです。訴状を実際に読みあげることはありません。裁判官が「訴状を陳述しますか」と質問し,原告代理人が「はい」と答えると,訴状を陳述したことになります。
被告は,期日前に答弁書を提出します。第1回期日は,被告の都合を聞いて指定していませんので,第1回期日に限り,被告が欠席しても答弁書を陳述したものと擬制されます。
裁判所は,被告の準備に相当な期間をおいた次の週以降で,原告代理人・被告代理人の都合のよい日時を第2回期日に指定します。

4 第2回期日以降
第2回以降の期日は,通常,弁論兼準備手続きに付されます。これは,非公開です。法廷ではなく裁判官室の隣の小さな部屋で行います,原告本人・原告代理人・被告代理人が出席できます。病院の事務担当者、原告の家族は、裁判所の許可を得て出席することができます。
裁判所は、原告代理人・被告代理人の準備に相当な期間をおいた日までに書面の提出を指示し、その次の週以降で,原告代理人・被告代理人の都合のよい日時を次回期日に指定します。医療訴訟の場合,おおよそ1ヶ月半から2か月後をの期日を指定することが多いです。

【主張と争点の整理】
被告は,期日の1週間前までに準備書面を提出します。被告は,準備書面に,原告の主張に対する認否(認める。否認する,不知,争う)と被告の主張を記載します。
原告は,その次の期日に,原告の反論を記載した「準備書面」を期日の1週間前までに提出します。(裁判所がとくに提出期限を指定しない限り,書面の提出は期日の1週間前までというのは慣行になっています。)
被告は,その次の期日に,被告の反論を記載した「準備書面」を期日の1週間前までに提出し提出します。
このように,原告と被告は,期日ごとに交互に「準備書面」を提出し,反論します。
争点が多岐にわたり複雑な事案では,裁判所が「争点整理」を作成することもあります。

【証拠と立証】

被告は,被告病院の診療記録(審理に必要な期間・範囲)に翻訳を付し,証拠説明書をつけて証拠提出し,事実経過を立証します。(「証拠の提出」とは,証拠を裁判の資料とする手続きです。原本があるものは,原本と写しを確認します。
被告は,医師・看護師の陳述書を作成し,証拠説明書をつけて証拠提出し,事実経過を立証します。
原告は,前医・後医の診療記録(審理に必要な期間・範囲)に翻訳を付し証拠説明書をつけて証拠提出し,事実経過を立証します。
原告は,患者・家族の陳述書を作成し,証拠説明書をつけて証拠提出し,事実経過を立証します。
原告は,後遺症診断書(または死亡診断書),領収書,給与所得証明書等を証拠説明書をつけて証拠提出し,損害を立証します。

原告・被告は,それぞれ医学文献を証拠説明書をつけて証拠提出し,医学的知見を立証します。
原告・被告は,東京地裁の場合,それぞれ医師の意見書を証拠説明書をつけて証拠提出し,医学知見のその事案への具体的なあてはめを立証します。東京地裁は,医師の意見書を重視し,さらに意見書を書いた医師の尋問も求めます。
原告・被告は,それぞれ人証申請を提出し,本人尋問・証人尋問を申請します。

【診療経過一覧表】
被告が診療経過一覧表を作成し,原告が診療経過一覧表の原告反論欄に加筆し,被告が争わない事実については左欄に移記します。カルテに記載のある事実とカルテに記載のない事実が下線などで分かるようにします。
診療経過一覧表は,事実経過を記載するものであって,事実についての評価を記載するものではありません。
最終的に確定した診療経過一覧表が,判決に添付されます。

5 尋問
公開の法廷で行います。
一回の期日で,裁判所が採用した本人・証人について,本人尋問・証人尋問を集中して行います。

6 判決
原告・被告の主張・立証が全部行われると「弁論終結」となり,裁判所は判決期日を指定します。判決は,公開の法廷で行われます。裁判官は,判決期日で,判決の結論(主文)を読み上げます。原告代理人の法律事務所の事務職員は,その日のうちに書記官室に判決正本受け取りに行きます。事務職員が受け取りに来ないときは,裁判所が判決正本を代理人に郵送します。

7 控訴
第1審の判決に不服の場合,14日以内に控訴状を提出して控訴できます。

※ 原告・被告に和解の意思がある場合,裁判所から,和解の勧試があることがあります。
※ 裁判所が選任する鑑定人による鑑定が行われることもあります。
※ 裁判所によっては,専門委員を関与させることもあります。

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